旧日本海軍の軽巡洋艦「長良(ながら)」が、海底に沈む姿の撮影に初めて成功した。長良は太平洋戦争中、ミッドウェイ海戦やソロモン海戦を戦い抜いた軍艦で、一九四四年八月にアメリカ軍の潜水艦によって撃沈された。今回、その船体が長い年月を経て、初めて映像としてとらえられた。
長良が沈んだのは、一九四四年八月七日のことだった。沖縄から鹿児島へ疎開する人たちを運び終え、佐世保へ帰還する途中に攻撃を受けたという。沈没した場所は、熊本県天草市の港からおよそ十三キロの沖合だった。戦時中の輸送の任務のさなかに、突然の攻撃に見舞われた形だ。
当時を知る人の証言によると、当直の兵が「クジラ、クジラ」と、ある方向を指さしたという。その先には黒いものが水しぶきをあげていたが、クジラと見間違えたそれは、実際にはアメリカ軍の魚雷だった。艦には強い衝撃が走り、気づいたときには暗い海の中に投げ出されていたと、生存者は振り返っている。
今回の撮影は、水深およそ百メートルの海底で行われた。撮影チームがアンカーを打ち込んで潜水し、二十分ほどかけて海底に到達すると、そこには八十二年間、静かに沈み続けてきた長良の船体があった。撮影はおよそ十分間に及び、当時の姿をとどめる艦の様子が記録された。
撮影にあたっては、遺族の思いに配慮した対応がとられた。「海軍の軍人として、船と一緒に眠っているそのままの状態で慰霊してほしい」という遺族の願いをくみ、今回、遺骨や遺品の回収は行われなかった。船体には手を触れず、静かに記録することが優先された。
一方で、海底で撮影された写真は、遺族に配られることになっている。これまで目にすることのできなかった船体の姿を、遺族が改めて見ることができるようになる。長く海の底に眠ってきた長良と、そこに関わった人々とを結び直す機会にもなりそうだ。
太平洋戦争の終結から八十年余りがたつなか、海の底に眠る軍艦の姿が初めて記録されたことは、当時の戦争を今に伝える貴重な手がかりとなる。長良の船体は、これからも熊本沖の海底で、多くの人々が巻き込まれた戦争の歴史を静かに物語り続けることになる。
