大分県大分市の県立美術館で今日から、独学で水彩画を描き続けた東勝吉さんの作品展が始まった。会場には、由布院の四季折々の風景を描いた六十五点が並び、訪れた人たちが、素朴ながら確かな色使いの作品にじっくりと見入っている。一人の市井の人が遺した風景画が、静かな存在感を放つ展示となっている。
東さんはもともと林業に携わってきた人物で、長く山仕事とともに人生を歩んできた。木々や自然と向き合う日々を重ねてきた東さんが、絵を本格的に描き始めたのは、人生のかなり後半に入ってからのことだった。
東さんが初めて絵筆を握ったのは、由布市の由布院にある特別養護老人ホームでのことだった。その時、実に八十三歳。多くの人が筆を置いていくような年齢から、東さんは新たに絵の世界へと足を踏み入れ、創作に打ち込んでいった。
それから東さんは、九十九歳で亡くなるまで描き続け、百点余りの水彩画を残した。晩年の十数年を、由布院の風景を一枚一枚写し取ることに注ぎ込んだ計算になり、その情熱が数多くの作品となって今に伝えられている。
今回の展覧会には、そのうちの六十五点が展示されている。いずれも由布院の四季を捉えた風景画で、春から冬へと移ろう季節の表情が、東さんの目を通してやわらかく、そして力強く描き出されている。
誰かに師事することなく、独学で描き続けた東さんの作品は、その構図と色使いの確かさが高く評価されているという。専門的な訓練を受けていないからこそにじみ出る、自由でのびやかな表現が、見る人の心を引きつけている。
この作品展「東勝吉 由布を描く 描く喜び」は、今年八月三十一日まで、大分市の県立美術館で開かれている。八十代になってから絵を描く喜びに出会った一人の男性が遺した風景は、年齢に関わらず何かを始められることを、静かに語りかけている。
