W杯ベスト32という結果を「感動」と切り捨てる風潮に対し、セルジオ越後氏と山本昌邦氏の対比からJFAの構造的課題を問う。
10月9日の夜、埼玉新聞の報道がJFA(日本サッカー協会)の年末の動きを明確にした。来年1月に開幕するアジアカップに向け、大阪のPanasonic Stadium Suitaで強化試合を開催する計画が関係者の取材で浮き彫りになったのだ。まだ対戦相手は調整中だが、アジア勢が候補に挙がっており、山本昌邦技術委員長は「正式には何も決まっていないが、準備は進めている」と慎重な姿勢を見せた。この静かな動きの裏側で、もう一つの激しい議論がスポーツ界を揺さぶっている。
同じ日、日刊スポーツの取材に応じたセルジオ越後氏(81)が、日本代表の現状を「前代未聞」と表現した。W杯ベスト32という結果を「感動をありがとう」として流すことを許さず、JFAの監督人事やメディアの責任まで含めた厳しい指摘を浴びせた。年末の強化試合という「準備」と、越後氏の「批判」という二つの視点。この両極端な反応こそが、今の日本サッカーの歪みを最も端的に示している。
越後氏の「前代未聞」人事批判
越後氏が最も激しく批判したのは、森保一監督から大岩剛監督への交代という人事だ。「半年で森保監督が終わりで、その先が大岩監督?こんな人事は世界中で聞いたことない」と、彼は断じた。W杯でベスト32という「前回より成績が下がった」結果を受け入れ、来年のアジアカップを勝利に導くためにW杯メンバーを起用すること自体は「当たり前」だが、その過程で若手が「犠牲になった」と指摘する。
この批判は、単なる感情的な怒りではない。W杯で日本が敗れたスペインが優勝したという事実を突きつけ、「この4年間でこの差がついたことをもっと協会は反省しないといけない」と述べた。結果を求められている以上、メンバー選定は当然だが、それを「感動」として矮小化することは、組織の成長を止める行為だと彼は喝破する。
越後氏はさらに、宮本恒靖会長が芸能人とリフティングをしている光景を例に挙げ、「そんな場合じゃない」と皮肉を飛ばした。トップがファンサービスに走っている間に、現場の強化戦略が曖昧になっている。この指摘は、JFAが「結果を出す組織」から「人気を集めるエンターテインメント企業」に移行しようとしていることの危険性を示唆している。

松木玖生の「見えない壁」
越後氏の批判の中心には、MF松木玖生(23、サウサンプトン)の存在がある。9月24日のウルグアイ戦で代表初出場を飾ると、いきなり初得点を奪った。越後氏は「出てすぐ得点するというのは大したもんだ」と絶賛するが、同時に「もっと見たかった」とも漏らした。
松木はウルグアイ戦後、なかなか出番がめぐってこなかった。4連戦の4試合目、ニュージーランド戦の後半42分から途中出場したという事実が、その「壁」の存在を如実に物語っている。「結果を出しても出る時間もらえなかったら、どうすればいいんだ。育つチャンスだったのに」と、越後氏は代弁するように残念がる。
高校選手権でスターだった彼が、ヨーロッパに行って「ニュースが消えた」後、チャンピオンシップで再びチャンスを掴み、代表で得点した。この「根性」は称賛に値するが、それを生かす環境が代表チームの中に存在しない。越後氏の言葉は、個人の能力ではなく、組織が才能をどう扱うかという構造問題への問いかけだ。

年末強化試合の「準備」という罠
一方、JFAは来年1月のアジアカップに向けた準備を進めている。年末に大阪で強化試合を開催する計画は、その一環だ。山本昌邦技術委員長の「準備は進めている」という発言は、組織としての責任を果たそうとする姿勢を示している。対戦相手がアジアのチームであることも、実戦的な準備であることを示唆している。
しかし、この「準備」が越後氏の言う「若手の犠牲」を正当化するものではない。年末の強化試合で誰を起用し、どのような戦略を試すのか。その詳細がまだ「正式には何も決まっていない」現状は、準備が形骸化していないかという疑念を生む。
強化試合は、単なる「試合」ではない。それは、来年のアジアカップでどのようなチームを提示するかの「宣言」でもある。対戦相手が調整中である今、JFAがどのような基準で選手を選び、どのような戦略を練っているのか、その透明性が問われている。

メディアの責任と「感動」の罠
越後氏は、メディアの責任にも言及した。「もっと批判しないと本当に強い国にはなれない。プロなんだから。強くて人気なら潤うんだから、負けたときはちゃんと痛いことを書かないと。そうやって強くなっていくんだ」と彼は断言する。
この言葉は、スポーツジャーナリズムの役割を再定義するものだ。ファンに「感動」を与えることではなく、組織に「痛み」を与えること。それが、長期的な強さを生む原動力だと彼は信じている。
「感動をありがとう」では、株主総会で通用しない。W杯ベスト32という結果を、表面的なポジティブな言葉で包み込むことは、組織の改善を阻害する。越後氏の批判は、メディアが「共感」ではなく「検証」を選ぶべきだという、プロフェッショナルとしての覚悟を求めている。
「準備」と「批判」の交差点
JFAの年末強化試合の計画と、セルジオ越後氏の厳しい批判。この二つは、一見すると対立しているように見える。しかし、それは同じ問題、すなわち「日本サッカーの今後」に対する二つの異なるアプローチだ。
JFAは「準備」を通じて結果を求め、越後氏は「批判」を通じて構造を問う。この両方が存在するからこそ、日本サッカーは停滞しない。しかし、もし「準備」が形骸化し、「批判」が「感動」に押し流されたら、日本サッカーは再び「前回より成績が下がった」結果に追いやられるだろう。
年末の大阪で、どのような試合が組まれるのか。そして、その試合を、私たちはどのように評価するのか。その問いが、来年1月のアジアカップ、そしてその先のW杯に向けた、本当の「準備」の始まりかもしれない。
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