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だしに隠された第五の味 うま味を発見した日本の科学者の物語

森田佳奈 森田佳奈 kanamorita.avalw.com · 92 reads Respect0 Save Share Read only
READS20live count PUBLISHED21 Sept2026 READING TIME1 min14 words LANGUAGEJapanese
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甘い、しょっぱい、酸っぱい、苦い。そのどれとも違うもう一つの味が、日本の食卓の奥深くに息づいていた。一杯のだしから始まった発見の物語をたどってみたい。

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私たちが日々口にする料理の味は、長いあいだ、甘い、しょっぱい、酸っぱい、苦いという四つの基本の味で説明されてきた。ところが、和食を口に運んだときに感じる、あの奥深く満ち足りた感覚は、そのどれにも当てはまらない。そこには、言葉にしづらいけれど確かに存在する、もう一つの味が隠れていたのである。

その味に初めて科学の光を当て、うま味という名前を与えたのは、ほかならぬ一人の日本人科学者だった。今回は、ごく身近なだしの中から新しい味覚が見いだされ、やがて世界へと広まっていくまでの、静かで確かな発見の物語を振り返ってみたい。それは、いつもの食卓をあらためて見つめ直すきっかけにもなるはずだ。

一杯の湯豆腐から始まった疑問

物語の始まりは、二十世紀の初め、東京帝国大学で物理化学を研究していた池田菊苗という人物にさかのぼる。ある日、彼は昆布でとっただしの中で温められた湯豆腐を味わいながら、ふと立ち止まって考えた。この汁の深い味わいは、いったい何に由来するのだろうか、と。

甘さでも、塩辛さでも、酸味でも、苦みでもない。しかし舌の上には、じんわりと満ち足りた確かな味が広がっている。多くの人が当たり前として通り過ぎてきたこの感覚に、彼は科学者としての強い好奇心を抱いた。そしてその正体を突き止めようと、地道な研究に取りかかったのである。

昆布から取り出された結晶

池田は大量の昆布のだしを煮詰め、その成分を根気強く分析していった。そして一九〇八年、ついにその深い味の正体となる物質を、結晶の形で取り出すことに成功する。それは、グルタミン酸と呼ばれるアミノ酸の一種が、塩の形になったものだった。長年の謎が、ようやく形を伴って姿を現した瞬間である。

彼はこの新しい味を、日本語の旨いという言葉にちなんで、うま味と名づけた。甘味、塩味、酸味、苦味に続く、五番目の基本の味の誕生である。身近な昆布の中に、これほど普遍的な発見が眠っていたという事実は、当時としては実に画期的なことだった。一杯のだしが、科学の歴史に新しい一ページを刻んだのである。

かつお節が秘めたもう一つの味

物語はここで終わらない。池田の発見に刺激を受けた弟子の一人が、数年後、今度はかつお節の中に別のうま味の成分を見いだした。それはイノシン酸と呼ばれる物質で、昆布に含まれるグルタミン酸とはまた異なる経路から、同じうま味という感覚を生み出すものだった。

さらにのちには、干した椎茸に含まれるグアニル酸という成分にも、同じような働きがあることが分かってくる。こうして、日本の台所でごく当たり前に使われてきた食材の一つ一つに、うま味の源が確かに宿っていたことが、次々と科学の言葉で裏づけられていったのである。

一足す一が十になる不思議

そして、この物語の中でも最も興味深いのが、うま味の成分どうしが組み合わさったときに起こる現象である。グルタミン酸を含む食材と、イノシン酸を含む食材を合わせると、それぞれを単独で使ったときの合計をはるかに超える、強く豊かなうま味が立ち上がるのだ。

昔から日本人が、昆布とかつお節を合わせて一番だしを引いてきたのには、こうした理にかなった裏づけがあった。経験と知恵によって受け継がれてきた技が、じつは科学的にも極めて優れた組み合わせだったことを、この相乗効果は雄弁に物語っている。先人の舌の確かさには、あらためて驚かされるばかりだ。

和食の土台を支える力

彩り豊かな手まり寿司。米や魚介そのものにひそむうま味は、だしと並んで、和食のやさしい味わいを静かに支えている。
彩り豊かな手まり寿司。米や魚介そのものにひそむうま味は、だしと並んで、和食のやさしい味わいを静かに支えている。

うま味は、決して特別な料理だけのものではない。味噌汁や煮物、鍋物といった、日本の家庭で毎日のように食べられてきた料理の、まさに土台を静かに支えている。だしがきいた一杯の汁ものが、なぜあれほど心を落ち着かせるのか、その答えもここにある。何気ない毎日の食事こそ、うま味が最も生き生きと働く舞台なのだ。

素材そのものの持ち味を大切にする和食は、このうま味を巧みに引き出すことで、少ない油や調味料でも深い満足感を生み出してきた。健康的でありながら豊かな味わいを両立させるその知恵は、いまや世界中の料理人からも熱いまなざしを向けられている。その評価は、年を追うごとにいっそう高まりつつある。

世界の言葉になったうま味

興味深いことに、うま味という日本語は、今ではそのまま世界共通の言葉として広く使われるようになっている。かつては説明のしようがなかった第五の味は、国境を越えて多くの料理人や科学者に受け入れられ、食の世界に新しい地平を切りひらいた。小さな発見が、これほど大きな広がりを見せた例は決して多くない。

次にだしのきいた一杯を口にするときには、その奥に潜む味の正体に、少しだけ思いを馳せてみてほしい。ありふれた食卓の一椀の中に、一人の科学者の探究心と、長い年月をかけて磨かれてきた食文化の知恵が、静かに溶け合っているのだから。その一口には、語り尽くせないほどの豊かな物語が詰まっている。

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森田佳奈 2026-09-21 · 1 min read · 20 reads
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