お腹いっぱいになる少し手前で箸を置く。腹八分目と呼ばれるこの古くからの習慣は、なぜ健康によいとされるのか。長寿で知られる島の暮らしとともに、その意味と実践のこつをひもとく。
おいしい料理を前にすると、つい満腹になるまで食べ続けてしまう。そんな経験は、多くの人にとって身に覚えのあることだろう。ところが、日本には昔から、そうした食べ方をやんわりといましめる、味わい深い言葉が伝わっている。それが、腹八分目という古くからの教えである。
お腹がいっぱいになる少し手前で、あえて箸を置く。ただそれだけの、たいへんつつましい習慣でありながら、この教えには健康を支える深い知恵が込められているといわれている。今回は、この腹八分目という考え方について、その由来や体への働き、そして日々の実践のこつを、やさしくひもといていきたい。
「腹八分目」という古い知恵

腹八分目とは、その名の通り、満腹を十とするなら、その八割ほどでとどめておくという食べ方を指している。もうひと口食べたい、と感じるくらいのところで、あえて食事を切り上げるのである。決して我慢を強いる厳しい節制ではなく、ほどよいところで満足するという、穏やかな心がけだといえる。
この考え方のもとをたどると、はるか昔に大陸から伝わった、古い道徳の教えにいきつくといわれている。それが長い年月をかけて、日本の暮らしのなかにしっかりと根づき、食卓の知恵として受け継がれてきた。何百年もの時を超えて語り継がれてきたところに、その値打ちがうかがえる。
長寿の島に息づく習慣
この腹八分目の習慣が、とりわけ色濃く生きているのが、日本の南に浮かぶある島々である。この地域は、百歳をこえてもなお元気に暮らすお年寄りが世界でも指折りに多いことで、広く知られている。長く健やかに生きる人々の暮らしのなかに、この食べ方は自然と溶け込んでいるのだ。
もちろん、その長寿の理由が腹八分目だけにあるわけではないだろう。豊かな自然の恵みや、体をよく動かす暮らし、人とのつながりなど、さまざまな要素が重なり合っている。それでも、食べすぎないという日々の小さな心がけが、その土台の一つになっていることは、想像にかたくない。
なぜ体によいとされるのか
では、なぜ腹八分目が体によいと考えられているのだろうか。実は、私たちの脳が満腹だと感じるまでには、食べはじめてから十数分ほどの時間がかかるといわれている。そのため、勢いよく早食いをすると、脳が満腹の合図を出す前に、つい食べすぎてしまいやすいのである。
そこで、ゆっくりとよく噛んで食べ、満腹の少し手前で箸を置く。そうすることで、知らず知らずのうちに食べすぎを防ぎ、無理な我慢をせずとも、ほどよい量におさめることができる。こうした食べ方が、体重の管理や、体への負担をやわらげることにつながるとされているのだ。
今日から始める心がけ
腹八分目を実践するうえで大切なのは、なによりもゆっくり食べることである。ひと口ごとに箸を置いてみたり、料理の味や香りをじっくりと味わったりするだけでも、食べる速さは自然とゆるやかになる。会話を楽しみながらの食事も、早食いを防ぐよい工夫になるだろう。
もっとも、体の状態や必要な食事の量は、人それぞれ異なるものである。育ち盛りの人や、体の調子に不安のある人は、無理に食事を減らそうとせず、専門家に相談することも大切だ。そのうえで、満腹を追い求めすぎない穏やかな食べ方を、暮らしのなかに少しずつ取り入れてみてはどうだろうか。

Keep subscribing to 佐野瑞希Her next filing reaches you the moment it publishes, on her own subdomain.
Subscribe
