V&A非公開のプリンス・コンソート・ギャラリーで、バーバリーのトレンチが150年の素材革新と自由な美の進化を語る。
ロンドンのV&A、通常は立ち入ることのできないプリンス・コンソート・ギャラリー。マホガニーの展示キャビネットが並ぶこのヴィクトリア朝の空間に、バーバリーのトレンチコートが静かに置かれています。『The Burberry Trench: Crafting an Icon』という展覧会が、まさに今ここで開催されているのです。
2026年9月21日から始まったこの展示は、単なるブランドの回顧展ではありません。21歳の青年が始めた小さなショップから始まった物語が、イギリスの象徴的なアウターへと昇華し、今なお自由な表現として進化し続けるその軌跡を、素材とクラフトの視点から再定義するものです。
素材の革新が物語の起点
物語の出発点は、創業者トーマス・バーバリーのアウトドアへの強い関心にあります。1879年、彼は軽くて丈夫なコットンギャバジンという画期的な素材を生み出しました。この素材開発こそが、後のトレンチコートの実用性と耐久性の両立という、ブランドの核心となる価値観の原点です。
1920年代に入ると、バーバリーはショーを開催し始め、街に生きる人々のファッショナブルなアイテムとして浸透していきます。実用的なアウターや軍用服としてのルーツを持ちながらも、ファッションの文脈へと自然に溶け込んでいったこの過程こそが、このブランドが持つ独特のバランス感覚を物語っています。

細部に宿るクラフツマンシップ
展示の中心にあるのは「Invention」「Craft」「Creativity」という3つの章です。特に目を引くのは、襟やハウスチェック、ストームフラップ、ベルトといった、バーバリーのトレンチを形づくる細部の要素や製作工程がスポットライトを浴びている点です。
高密度のウールギャバジンを使った鮮やかな赤のスキーウェアなど、ギャバジンはさまざまな重さや質感で展開され、エレガントな佇まいには今見ても「着たい」と思わせるタイムレスな魅力があります。細部へのこだわりとクラフツマンシップが、単なる衣服を超えた存在価値を生み出しているのです。

歴代デザイナーが刻む創造性
奥の部屋へと足を踏み入れると、豊かなカラーと質感のトレンチコートがずらりと並んでいます。クリストファー・ベイリーによるメタリックな一着から、ビジューやスタッズをあしらったデザインまで、時代ごとの創造性を間近で見ることができます。
現クリエイティブ・ディレクター、ダニエル・リーによる作品は、ロンドンの夜に着想を得たものです。素材やディテールでトレンチの概念をさりげなく更新しながら、マチュアで洗練された印象を与えます。歴代デザイナーの創造性によって更新されていくこの軌跡こそが、このブランドの生命力そのものと言えるでしょう。

大胆な再構築の果て
展示の一番奥でドラマティックな存在感を放っているのが、リカルド・ティッシによるボールガウンです。トレンチの要素を残しつつ、大胆に再構築したこの一着は、アウターが持つ可能性の限界を問うているかのようです。
トーマス・バーバリーは、トレンチコートがこれほど自由な表現になり得ると想像しただろうか。冒険心と革新を原点とするこのスピリットとクラフツマンシップを受け継ぎながら、今も進化を続けている。その事実こそが、この展覧会が私たちに伝えてくれる最も重要なメッセージです。
ロンドンを訪れる者に
『The Burberry Trench: Crafting an Icon』の会期は2027年1月3日(日)までです。ロンドンを訪れる機会があるなら、マストなアドレスと言えます。無料で入場できるこの展覧会は、ファッションの歴史を肌で感じられる貴重な体験となるでしょう。
素材の革新から始まり、クラフトの細部に宿る情熱、そして歴代デザイナーの創造性によって更新され続けるこの物語は、単なるブランドの歴史を超えた、現代のファッションが持つ可能性を示しています。
よくある質問

Keep subscribing to 佐々木成美Her next filing reaches you the moment it publishes, on her own subdomain.
Subscribe
