東京や京都に集中してきた旅行者の流れが、いま静かに地方へと向かい始めている。混雑を避け、知られざる土地へ足を延ばす。そんな新しい旅のかたちを、最新の政策や数字とともに読み解く。
海外からの旅行者にとって、これまで日本の旅といえば、まず思い浮かぶのは東京や京都、そして大阪といった名だたる大都市だった。この三つの都市を結ぶ道筋は、いつしか黄金ルートと呼ばれ、初めて日本を訪れる多くの人々が、判で押したように同じ場所をたどってきた。だが今、その慣れ親しんだ旅のかたちが、少しずつ、しかし確かに変わり始めている。
有名な観光地に人が集まりすぎてしまう、いわゆる混雑の問題が深刻さを増すなかで、旅行者の関心は、まだあまり知られていない地方の土地へと静かに向かいつつある。今回は、二〇二六年のいま日本の観光がどこへ進もうとしているのかを、国の新しい政策や具体的な数字を手がかりに、じっくりとたどっていきたいと思う。
混雑を離れて地方へ

近ごろ、京都の細い路地や富士山のふもとといった名所では、あまりに多くの人が押し寄せることによる混雑が、地元の暮らしにまで影を落とすようになっていた。住宅街の狭い小道での写真撮影が禁じられたり、人気の登山道に一日あたりの人数制限が設けられたりと、各地でさまざまな対応が取られている。こうした状況が、旅のあり方そのものを見つめ直す大きなきっかけとなっている。
その一方で、名前のよく知られた大都市をあえて離れ、静かな地方の町や村へと足を延ばす旅行者が、着実にその数を増やしている。土地の食を味わい、昔ながらの暮らしにふれ、急がずゆっくりと時間を過ごす。そんな穏やかな旅のかたちが、混雑に疲れた人々の心を、静かに、しかし確かにつかみつつあるのだ。
国が描く分散の青写真
こうした流れを、国もまた政策としてはっきりと後押ししている。旅行者があまりに一部の場所に集中しすぎないよう、混雑への対策に取り組む地域を、これまでの四十七から、二〇三〇年までにおよそ百にまで大きく増やすという新たな目標が掲げられた。旅の行き先を全国へと広く散らしていくことが、いまや国の正式な方針として明確に位置づけられている。
この方針を支える財源のひとつが、日本を出国する際に支払う税金である。これまで一人あたり千円だったこの税は、今年の夏から三千円へと引き上げられることになった。集められたお金は、混雑をやわらげたり、地方の交通や受け入れ環境を整えたりするための費用に充てられる。観光を担う国の予算も大きく積み増され、地域を守るための取り組みに手厚く回されようとしている。
先を行く地域の工夫
すでに全国では、混雑への対応に先んじて取り組む二十六の地域が選ばれ、それぞれの土地の事情に合った独自の工夫を重ねている。たとえば京都では、人の流れを地下鉄へとうまく導くことで、道路の混みあいをやわらげようとしている。箱根では、デジタルの地図を使って人の集まり具合をわかりやすく示し、混雑を分散させる試みが進められている。
自然環境の保護を何より大切にする土地では、また別の工夫が凝らされている。ある南の島では、生態系を守るために立ち入る人数そのものに制限を設け、別の地域では、環境への負担を減らそうと電気自動車や自転車の利用を積極的にすすめている。船で渡る島では、地元の交通網そのものを丁寧に整え、訪れた人が動きやすいように工夫を凝らしているという。
旅行者に求められる姿勢
こうした大きな変化のなかで、訪れる側にもまた、これまでとは少し違った心構えが求められるようになってきた。人が集中しやすい時期をあえて外して旅の計画を立てたり、有名な名所だけでなく、その周りに広がる知られざる土地へも目を向けてみたりする。そんなささやかな心がけが、地元の暮らしを守り、そして旅そのものをより豊かなものにしていく。
混雑した名所を駆け足でめぐるだけでは、けっして見えてこない日本の姿がある。二〇二六年という年は、ただ多くの人を呼び込むことから、訪れた人に土地の文化や自然、そして日々の暮らしと深くつながってもらうことへと、大きく舵を切る節目になろうとしている。次に日本を旅するときは、地図の少し外側にある静かな土地へ、そっと足を延ばしてみてはどうだろうか。

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