閉店と再出店の波に揺れる東京のファッションシーン。オンラインで人気だったアジア発ブランドが初めて実店舗を出店する瞬間を、現場の空気で振り返る。
10月9日、渋谷の街は静かに息を呑んだ。ビームスが1980年代のデザインをそのまま復活させたオレンジ色の肩掛けバッグを数量限定で配り始めた。あの懐かしい色と形状は、閉店した西武渋谷店の思い出を色濃く映す鏡のように映る。同じく10月31日、代官山の「ミスターフレンドリーカフェ」も幕を下ろす。ハの字眉とスマイルのキャラクターが長く親しまれてきた場所に、もう足を運ぶことはできない。
一方で、原宿の「and ST TOKYO」では、アジア発の15ブランドが集うポップアップイベント「60% meets and ST TOKYO」が第3弾として開催されている。オンラインで人気を集めてきたFORrrやcavishは、この機会に初めてリアルな店舗展開に踏み出した。東京の街は、失われた懐かしさと、これから生まれる新しい出会いの両方を同時に抱えている。
ビームスのオレンジ、西武の閉店と重なる記憶
ビームスが復刻させた「オレンジショッパー」は、まさに1986年のデザインを忠実に再現したものだ。渋谷区神宮前の店舗で配布が始まったこのバッグは、限られた数のみで、まるでタイムカプセルのように当時の空気を閉じ込めている。西武渋谷店が9月30日に閉店した日の様子を、多くの客が最後の瞬間に見届けに駆けつけた。その混雑と静寂が入り交じる場面は、渋谷という街が持つファッションの重層構造を如実に示していた。
この復刻は単なるノスタルジーではない。ビームスというブランドが持つ、時代を超えて愛されるデザイン力と、渋谷という土地が持つ記憶の深さを、同時に呼び覚ます行為だ。オレンジ色の袋を持つ人々の姿は、過去の渋谷と現在の渋谷を繋ぐ、目に見える橋のような役割を担っている。

ミスターフレンドリーカフェの最後の微笑み
代官山の「ミスターフレンドリーカフェ」は、10月31日の閉店を前に、最後の数日を静かに過ごしている。この店を愛した人々にとって、このキャラクターの直営店がなくなることは、単なる商業施設の閉鎖以上の喪失感をもたらす。ハの字眉とスマイルフェースが描かれた空間で過ごした時間は、多くの人のファッション記憶の一部として、これからも色褪せることはないだろう。
この閉店は、渋谷から原宿にかけてのファッション地軸の移り変わりを象徴する。かつてこのエリアに集まっていた、独特のユーモアと温かみのあるブランドたちが、一つずつ姿を消していく。その喪失は、次の新しい文化が生まれるための、必要な空間の空いたとも言える。

オンラインからリアルへ、アジア発ブランドの初出店
一方、原宿では異なる方向の動きが起きている。アジア発のブランドを集結するオンラインセレクトストア「60%」が主催するポップアップイベントに、韓国を中心とした15ブランドが参加している。特に注目すべきは、FORrrとcavishの2ブランドが、このイベントで初めて日本の実店舗に商品を並べたことだ。これまでInstagramやSNSを通じて、Z世代から熱狂的な支持を集めてきた彼らの世界観が、初めて物理的な空間で触れられるようになった瞬間である。
60%は、韓国、中国、台湾などアジア10カ国以上から2,700以上のブランドを取り扱っているグローバルECストアだ。2026年6月30日に株式会社アンドエスティHDのグループに参画して以降、その存在感はさらに強まっている。彼らが選んだこの15ブランドは、ストリートからデザイナーズまで、幅広い層の若者のニーズに応えるものになっている。

15ブランドが描く、新しいアジアの顔
今回のラインアップには、venhit、mahagrid、GENERAL IDEA、it doesn't matter.など、新規参入の6ブランドと、Grumpy Stuff、JIMI、RANDOMOFFなど継続する9ブランドが含まれている。それぞれのブランドが持つ独自の世界観が、原宿の空間に溶け込み、来場者はオンラインでは得られない、素材の質感や空間の空気感を直接体験できる。
会場では、最新コレクションに加え、ポップアップ限定アイテムや数量限定企画も展開されている。60%アプリを持っている人は、会場のQRコードを読み込むだけで1,000ポイントがもらえるという特典も設けられており、オンラインとリアルの境界をさらに曖昧にする仕掛けになっている。
失われたものを取り戻し、新しいものを受け入れる
渋谷のオレンジ色のショッパーと、原宿の15ブランドのポップアップ。一見すると無関係に見えるこの二つの出来事は、実は同じテーマを語っている。それは、ファッションというものが、過去から未来へ、そしてデジタルからアナログへ、そしてまたデジタルへ、常に流動的な状態にあるということだ。
私たちは、失われた懐かしさを復刻品で手に入れ、同時に、まだ見ぬ新しい文化をリアルな空間で発見していく。この二つの行為が同時に起きている東京の街は、ファッションの現在地を最も鮮やかに示している場所であり続ける。
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