5キロ4千円台まで高騰したコメが、わずか二年で記録的な余剰へと転じた。猛暑と需要、そして備蓄放出が絡み合った日本のコメをめぐる激動を、確かな数字とともにたどる。
日本の食卓に欠かせない主食であるコメが、この二年ほどの間に、かつてないほど激しく揺れ動いた。値段が急に跳ね上がったかと思えば、今度は一転して記録的な余りに悩まされている。私たちが毎日のように口にする一杯のご飯の裏側で、静かで、しかし決して小さくない騒動が起きていたのである。
発端となったのは自然の猛威であり、そこに需要の変化や政策の対応が複雑に絡み合った。ふだんは当たり前のように棚へ並ぶコメが、なぜこれほどまでに乱高下したのか。不足から余剰へと大きく振れた一連の流れを、確かな数字とともに、順を追ってあらためて振り返ってみたい。
猛暑が招いた不作
物語の始まりは、記録的な暑さと乾燥だった。2023年の厳しい猛暑が稲の生育に打撃を与え、その影響が翌年になって、供給の不足という目に見える形で表面化した。農家の懸命な努力だけではどうにもならない気候の変動が、食料という暮らしの土台を、静かに、そして確実に揺さぶったのである。
民間が抱えるコメの在庫は、通常およそ200万トンとされる水準から、150万トン前後にまで落ち込んだ。数字の上ではわずかな差に見えるかもしれないが、毎日消費される主食の需給においては、この目減りが店頭の空気を一変させ、人々の不安をかき立てるのに十分な大きさだった。
一気に上がった店頭価格
供給の細りは、そのまま値札へと跳ね返った。2024年の初めにはおよそ2千円だった5キロ入りの袋が、2025年には一時4,300円近くまで駆け上がった。毎日のように炊いて食べるご飯だけに、この値上がりは多くの家庭にとって、家計を直接に圧迫する、きわめて切実な問題となっていった。
政府の統計でも、2025年5月の小売価格は5キロあたり4,260円に達し、前年の2,127円からほぼ倍増したことが示されている。長らく安定していたはずの主食が、これほど短い期間で二倍近くにまで跳ね上がる光景は、多くの人にとって、ほとんど記憶にないものだった。
異例の備蓄放出

事態の深刻さを何よりも物語るのが、政府の対応である。災害などに備えて長年積み上げてきた備蓄米が、1995年に制度が始まって以来はじめて、市場へと放出された。本来は緊急時の最後の備えであり、その封印を解くこと自体が、今回の危機の大きさを雄弁に物語っていたと言える。
さらに2025年4月には、韓国からコメが輸入された。海外からの本格的な調達は実に25年ぶりのことであり、国産でまかなうのが当たり前とされてきた日本のコメの世界にとって、これは象徴的な出来事だった。あらゆる手立てが次々に動員された、慌ただしく緊迫した時期だったのである。
一転して記録的な余剰
ところが、である。ほんの二年ほどのうちに、日本のコメをめぐる風景は正反対の方向へと様変わりした。あれほど不足に苦しんでいたはずが、2026年には記録的とも言える余剰を抱えるまでになった。天候の回復や作付けの増加、そして需要の変化が、振り子を大きく逆側へと振り戻したのだ。
民間の在庫は、2024年の底から着実に回復し、2026年の半ばには243万トンにまで積み上がった。あまりに増えすぎた結果、今度は価格が下がりすぎるのを防ぐため、政府が市場からコメを買い戻すという、少し前にはおよそ考えられなかった対応にまで迫られている。
価格は落ち着きへ
こうした流れを受けて、店頭の価格もようやく落ち着きを取り戻しつつある。ピーク時には4千円を超えていた5キロの袋は、3,300円ほどの水準にまで下がってきた。まだ以前の手頃な安さには届かないものの、負担に苦しんできた家計にとっては、ひとまずの安堵材料と言えるだろう。
2026年9月には、政府が不足の際に取り崩した備蓄を元の水準へ戻すため、21万トンのコメを買い入れることを決めた。放出から一転して買い戻しへという、わずか一年ほどでの方針の大きな転換は、コメの需給を正確に読むことの難しさを、あらためて浮き彫りにしている。
食卓と農家のこれから
この一連の激動は、消費者だけでなく、作り手である農家にも重い問いを突きつけた。価格が激しく乱高下すれば、翌年どれだけ作付けをすべきかという判断は難しくなる。安定した供給を続けていくには、気候の変化にどう備え、需要をどう見通すかという、息の長い工夫が欠かせない。
一杯のご飯が当たり前のように食卓へ上ることの、ありがたさと、その危うさ。この二年間の騒動は、私たちにそのことを静かに思い出させた。豊かに見える食の裏側にある繊細な均衡を、これからどう守っていくのか。その答えを探る地道な作業は、これからも長く続いていくことになる。
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