HISが25歳以下向けの新ブランド「TABIOOPS!」を始動。計画不要の「日常の延長」を提案し、旅行のハードルを下げる。業界の風向きを変える一手だ。
「旅行は特別だ」という空気が、2026年の今、静かに崩れ始めている。エイチ・アイ・エス(HIS)が10月1日に発表した新ブランド「TABIOOPS!(タビップス)」は、その変化を体現する存在だ。対象は25歳以下の若年層。週末にふらっと出かけるように、旅行を「日常の延長」として楽しむスタイルを掲げている。計画に縛られず、道に迷ったり思いがけない出来事に遭遇するハプニング(Oops!)すら楽しむ。そんな遊び心あふれる自由な旅を、HISは提案している。
これは単なるマーケティングの発想ではない。旅行業界が直面する課題への、本質的な答えでもある。特に若年層は、かつてのような「一生に一度の大きな旅行」を計画するより、日常の中で気軽に移動し、体験することを好む傾向が強い。HISが「退勤後ツアー」や「肩肘張らないプラン」を用意する背景には、こうした生活様式のシフトがある。旅行はもう、特別な日のためにだけ存在しないのだ。
「退勤後ツアー」が示す、旅のハードル低下
「TABIOOPS!」の具体的なサービスの中に、最も興味深いものがある。それは「退勤後ツアー」だ。仕事や学校の終了後に旅に出る、という発想は、従来のパッケージツアーの常識を完全に覆す。移動手段や宿泊、食事までが、日常の延長線上に置かれることで、旅行の心理的・物理的なハードルが大幅に下がる。
これは、若年層の価値観を正確に捉えた戦略だ。彼らにとって旅は、大掛かりな準備や高額の費用を伴う「行事」ではなく、生活の一部として自然に組み込まれるべきものだ。HISが「おっと」驚く体験を提供する一方で、肩肘張らない日常の延長での旅を提案する二面性を持つことで、多様なニーズに応えようとしている。旅の形が多様化する中で、最も重要なことは、利用者がその瞬間に何を感じ、何を求めているかを見極めることだろう。

プレミアム旅行の拡大と二極化
一方で、旅行市場の全体像を見れば、若年層向けのカジュアルな動きと並行して、プレミアム旅行の需要も急拡大している。Trip.comグループの2026年上半期レポートによると、ファーストクラスおよびビジネスクラスの航空券のグローバル検索数は前年同期比99%増、5つ星ホテルの検索数は同57%増と、世界的に高まっている。
特に注目すべきは、世界で予約されている5つ星ホテルトップ10のうち4軒が日本にあるという事実だ。山梨県南都留郡の「ふふ 河口湖」や「星のや富士」など、富士山の景観と静かな湖畔を楽しめるリゾートの予約数は前年比3桁%の伸びを記録している。さらに、東京~札幌間がファーストクラスのフライトルートとして最も売れていることも示されている。旅行市場は、若者向けの日常延長型から富裕層向けの究極体験型まで、明確に二極化しつつある。
この二極化は、旅行者の多様性を反映している。誰もが同じ旅方を求める時代は終わり、個々のニーズや好みに合わせた体験が重視されるようになった。HISの新ブランドも、こうした市場の変化の中で、特定の層に特化することで存在感を高めようとしている。

日本発着クルーズの進化
海の上での旅にも、日本市場への注目が高まっている。バイキング・ジャパンは2028年春の「バイキング・ネプチューン」日本発着クルーズの特別先行予約を発表した。2028年シーズンは日本のお客様専用として運航され、外国客船としては最大規模となる日本語対応クルーを配置する。
バイキング・ネプチューンは465室の客室に最大930名を収容できるコンパクトなサイズで、大型船では寄港できない小さな港にもアクセスできるのが特長だ。イタリアの造船会社フィンカンティエリ社によって建造され、北欧モダンを基調とした洗練されたデザインと世界水準の設備を融合させている。
2026年の『コンデナスト・トラベラー』誌の読者投票では、6年連続で「リバークルーズ部門第1位」「オーシャンクルーズ部門第1位」に選出されており、その品質は世界的に認められている。日本発着クルーズとして設計された航路は、アジアの活気あふれる港町から、日本の豊かな自然景観や歴史的遺産を結び、知的好奇心を刺激する旅を提供する。

交通機関のシームレスな接続
旅の体験を豊かにするもう一つの要素は、交通機関の接続性だ。ANAの平澤寿一社長は、「空と陸のダイヤをつなぐ」ことを目指している。彼は子どもの頃から鉄道が好きで、大学在学中には当時の国鉄の全路線に乗り終えたという。
平澤社長は、航空と鉄道は競い合う間柄と見られがちだが、お客様のお運びできるのは出発地の空港から目的地の空港までであり、旅は空港で始まるわけでも終わるわけでもないと考えている。ご自宅を出て目的地にたどり着くまで、鉄道もバスもタクシーも、皆が一つの移動を支えているという視点から、あらゆる交通機関がつながり、座席も支払いも整い、あとは乗るだけの未来を目指している。
この構想は、若年層が求める「日常の延長での旅」にも深く関係する。移動手段の選択肢が広がり、シームレスにつながることで、旅の自由度はさらに高まる。
旅の未来は「日常」の中にある
HISの新ブランド「TABIOOPS!」は、旅の形が変化する中で、最も現実的な選択肢の一つを提供している。特別な日を待たず、日常の中で旅を味わう。そんな発想は、旅行業界に新しい風を吹かせるだろう。
プレミアム旅行の拡大、クルーズの進化、交通機関のシームレスな接続。これらはすべて、旅行者の多様化するニーズに応えるための試みだ。旅はもはや、特別なイベントではなく、生活の一部として自然に存在する時代が来ている。
2026年の今、旅の形は大きく変わりつつある。HISの「TABIOOPS!」が示すのは、その変化の先にある、より自由で、より日常に根ざした旅の未来だ。
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