涼しくなると、食卓は一年で最も豊かになる。さんまや松茸、栗に新米まで、秋ならではの旬の味覚を、その背景にある文化とともにじっくり味わってみたい。
厳しい夏の暑さがようやく過ぎ去り、涼やかな風が心地よく吹きはじめると、日本の食卓は一年でもっとも豊かな表情を見せはじめる。田畑や山、そして海から、実にさまざまな恵みが一斉に旬を迎えるのだ。この実り豊かでありがたい季節を、私たちは古くから食欲の秋と呼び、毎年心待ちにしてきた。
旬とは、ある食材が一年のうちで最も味がのり、栄養もいっそう豊かになる、まさに食べごろの時期を指す言葉である。そして秋は、この旬を迎える食材がとりわけ多い季節でもある。今回は、日本の秋を代表するいくつかの味覚を、その背景に静かに息づく文化とともに、ゆっくりとたどってみたい。
食欲の秋という言葉
そもそも、なぜ秋はこれほどまでに食と深く結びつけて語られるのだろうか。理由のひとつには、この季節がちょうど収穫の時期にあたることが挙げられる。春に植え、夏のあいだ大切に育ててきた作物が、まさに今、次々と実りを迎えるのだ。人々が自然の恵みに感謝し、その味を存分に楽しんできたのは、ごく自然な流れだった。
また、涼しくなって過ごしやすくなると、夏のあいだ暑さで衰えがちだった食欲が、自然とよみがえってくる。おいしいものを、心置きなくたくさん食べられる。そんな素朴な喜びが、食欲の秋という言葉の奥には込められている。実りの豊かさと、体の欲するままに味わう幸せとが、見事に重なり合う季節なのである。
海の恵み、秋刀魚の季節
秋の味覚と聞いて、まっさきに思い浮かべる人が多いのが、秋刀魚だろう。その名前の中に秋という文字をしっかりと持つこの魚は、まさにこの季節を象徴する存在である。脂がたっぷりとのった秋刀魚に、さっと塩をふって香ばしく焼き上げる。立ちのぼる白い煙とその香りは、それだけで秋の訪れを静かに告げてくれる。
焼きあがった熱々の秋刀魚に、大根おろしをそっと添え、すだちやかぼすといった柑橘をきゅっと搾りかける。そのさっぱりとした酸味が、脂の濃厚な旨みをいっそう引き立ててくれるのだ。ほろ苦いはらわたまで味わうのが通だとも言われる。こうした食べ方の工夫にも、旬の魚を大切にしてきた日本の食文化が息づいている。
山の香り、きのこと栗

豊かな海の幸があれば、当然ながら、滋味あふれる山の幸も決して忘れてはならない。秋の山が私たちにもたらしてくれる恵みの代表格が、香り高いきのこの数々である。なかでも松茸は、そのえも言われぬ豊かな香りの高さから、秋の味覚の王様とも呼ばれ、古くからたいへん特別なものとして珍重されてきた。
そして、山の恵みをもうひとつ挙げるとすれば、やはり栗をおいてほかにはないだろう。ほっくりとした甘い実は、そのまま蒸したり焼いたりしていただくのはもちろんのこと、炊きたてのご飯に炊き込んだり、和菓子や洋菓子へとその姿を変えたりと、実に幅広く楽しまれている。栗を使った料理や菓子は、秋の食卓をいっそう華やかに彩ってくれる。
甘い実りとほくほくの芋
秋はまた、木々が甘い果実を惜しみなく実らせる季節でもある。みずみずしい葡萄や、蜜をたっぷりと含んだ真っ赤な林檎が、次々と店先に並びはじめる。とりわけ、この時期に収穫される果物は、夏の強い日差しをたっぷりと浴びて育つため、甘みがぐっと強く、味わいも濃くなると言われている。
そして、秋の味覚を語るうえで決して欠かせないのが、さつまいもである。じっくりと時間をかけて焼き上げた焼き芋は、ほくほくとしたやさしい食感と、飾らない自然な甘さで、子どもから大人までを笑顔にしてくれる。肌寒くなりはじめた頃に、あたたかい焼き芋を両手で頬張るひとときは、この季節ならではのささやかな幸せだ。
旬を味わうという贅沢
このように、秋にはひとつの季節とはとても思えないほど、多彩で豊かな味覚があふれている。旬のものを、まさにその時期にいただくということは、単においしいというだけにとどまらない。最も栄養が豊かなときに、自然の恵みをそのまま体に取り入れるという、昔ながらの理にかなった知恵でもあるのだ。
たいへん便利な世の中になり、多くの食材が一年じゅういつでも手に入るようになった今だからこそ、あえて旬を意識して味わうという時間は、いっそう貴重なものに感じられる。この秋はぜひ、移りゆく季節が運んできてくれる旬の味を、ひとつひとつ丁寧に、心ゆくまで楽しんでみてはいかがだろうか。

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