鮮やかな緑と、まろやかな苦み。今や世界中で愛される抹茶だが、その一杯には驚くほどの手間が隠れている。ふつうの緑茶との違いと、抹茶ができるまでの道のりをたどる。
近ごろは、世界のどこへ行っても抹茶の名前を耳にするようになった。ラテに溶かし込まれ、アイスクリームや洋菓子に練り込まれ、あの鮮やかな緑色はすっかり人気者だ。ほろ苦さの奥にひそむ、まろやかで深いうまみ。多くの人を惹きつけてやまない、不思議な魅力を持った飲み物である。
けれども、この一杯の緑色の粉が、いったいどれほどの手間をかけて作られているのかを知る人は、意外に少ないかもしれない。そして、同じ緑茶でありながら、私たちが普段飲むお茶とは根本から違う点があることも。今回は、抹茶ができあがるまでの、長く手のかかった道のりをたどってみたい。
ただの緑茶ではない
まず最初に知っておきたいのが、抹茶とふつうの緑茶とのあいだにある、決定的な違いである。急須で入れる煎茶などは、茶葉をお湯にゆっくりと浸して、そこからしみ出してきた成分だけをありがたくいただき、残った葉そのものは最後に捨ててしまう。つまり私たちは、実のところ茶葉のごく一部しか口にしていないことになるのだ。
ところが抹茶はまったく違う。茶葉を丸ごと細かい粉にひき、それをお湯に溶かして、粉ごとすべて飲み干してしまうのだ。葉を余すことなく体に取り入れるからこそ、抹茶はあれほど濃い緑色をしていて、味も香りも、そして栄養までもがぎゅっと凝縮されている。ここに大きな秘密がある。
日陰で育てるという知恵
抹茶のあの品のよいうまみと鮮やかな色は、実は栽培の段階から始まる、特別な工夫によって生み出されている。抹茶のもとになる茶葉は、収穫を迎えるおよそ二十日から四十日ほど前になると、日光をさえぎる覆いをかけられ、日陰の中でじっくりと育てられるのだ。
こうして日光を制限することで、茶葉のなかでは面白い変化が起きる。うまみや甘みのもとになる成分が増える一方で、日光を浴びると強まる渋みの成分はおさえられる。同時に、緑色のもとである葉緑素もたっぷりと蓄えられていく。この日陰で育てた特別な葉こそが、抹茶の原料となる碾茶である。
石臼でひくという手間

収穫された碾茶は、そのあともていねいな手順を踏んでいく。まず蒸したうえで、ふつうの煎茶のように揉むことをせず、そのままの形で乾燥させる。そして仕上げに、かたい茎や葉脈といった余分な部分を丹念に取り除き、やわらかい葉肉の部分だけを選り分けていくのだ。
こうして残った葉を、最後に石臼でゆっくりとひいていく。あえて時間をかけて低速でひくのは、摩擦で生じる熱をおさえ、香りや色を損なわないためだ。石臼を一時間まわしても、得られる抹茶はほんのわずか。その手間のかかりようが、一杯の抹茶の価値を静かに物語っている。
点てるという作法
できあがった抹茶は、急須で入れるのではなく、点てるという独特のやり方でいただく。茶碗に抹茶の粉を入れ、お湯を注いだら、茶筅と呼ばれる竹製の道具で手早くかき混ぜる。すると、きめ細やかな泡が表面いっぱいに立ち、なめらかな口当たりの一杯ができあがる。
この一連の所作は、日本の茶道の中心にあるものだ。抹茶を点て、もてなし、静かに味わう。その落ち着いた時間そのものが、大切にされてきた。ちなみに、こうした日陰で育てる栽培法が発達したのは、京都の宇治の地であったと伝えられ、今も銘茶の産地として知られている。
世界へ広がる緑
かつては茶室の静けさの中でだけ味わう特別な飲み物だった抹茶も、今では国境を軽々と越えて、世界中で広く親しまれるようになった。舌に広がる豊かなうまみ、気持ちをやさしく落ち着けながらも頭を心地よくすっきりとさせてくれる成分、そして何より目にも鮮やかなあの緑色。その尽きない魅力が、遠く海を越えた人々の心までもしっかりととらえたのだ。
ラテやスイーツとして手軽に楽しむのも、もちろん素敵なことだ。けれども次に抹茶を口にするときは、その一杯にたどり着くまでの長い道のりを、少しだけ思い浮かべてみてほしい。日陰の畑から石臼を経て、茶碗の中の一服の緑になるまでの、気の遠くなるような手間と知恵の物語を。

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