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世界を沸かせる抹茶 日本茶輸出が過去最高、その裏で揺れる産地

渡辺 美咲 渡辺 美咲 misakiwatanabe.avalw.com · 181 reads Respect0 Save Share Read only
READS6live count PUBLISHED15 Sept2026 READING TIME1 min13 words LANGUAGEJapanese
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抹茶ブームで2025年度の緑茶輸出が847億円と過去最高に。栄西と千利休が育てた一碗の歴史をたどりつつ、煎茶の供給減や海外産の流入など、沸くブームの裏で揺れる日本茶産地の今を見つめる。

海外の街を歩くと、抹茶ラテや抹茶スイーツの文字を目にしない日はないという。かつては茶室の静けさの中で味わわれた日本の一碗が、いまや世界中の若者を夢中にさせている。歴史を追いかける私にとって、この光景はどこか不思議で、そして誇らしい。ただ、華やかなブームの裏側では、日本の茶産地が静かに揺れてもいる。今日は抹茶の長い来歴と、その現在地を一緒にたどってみたい。

数字が語る抹茶ブーム

まずは、ブームの大きさを数字で確かめておきたい。報道によれば、2025年度の日本の緑茶の輸出量は13,125トンに達し、前年度の9,272トンから42パーセントも増えた。金額に至っては847億円と、前年度の実におよそ2.2倍にふくらみ、過去最高を記録したという。世界的な健康志向や日本食への関心を追い風に、日本の緑茶がかつてない勢いで海を渡っていることが、はっきりと見て取れる。

輸出の主役は「粉末の緑茶」

この急拡大を引っ張っているのが、抹茶をはじめとする粉末状の緑茶である。報じられているところでは、緑茶輸出のうち粉末状のものがおよそ七割を占め、抹茶がけん引役になっているという。飲み物としてだけでなく、菓子やアイス、飲料のフレーバーとしても抹茶の名は世界に広がった。緑色の鮮やかさと、ほろ苦くも豊かな風味が、国境を越えて多くの人の心をつかんでいるのである。

抹茶とは何か

そもそも抹茶とは、碾茶と呼ばれる特別な茶葉を石臼で挽いた粉末のことである。碾茶は、収穫前に茶園を覆って日光をさえぎり、うま味を引き出した葉を、蒸したのちに揉まずに乾かして仕上げる。この手間のかかる茶葉を、時間をかけて細かな粉に挽くことで、あの深い緑と濃厚な味わいが生まれる。淹れて上澄みを飲む一般の緑茶とは違い、葉そのものを丸ごといただく点に、抹茶ならではの特徴がある。

栄西が伝えた一杯

抹茶の源流をたどると、鎌倉時代までさかのぼる。一般に、禅僧の栄西が中国の宋から茶の種と、粉末を点てて飲む喫茶の作法を持ち帰ったと伝えられている。栄西は茶の効能を説いた『喫茶養生記』を著し、茶を健康によい飲み物として広めたとされる。今でこそ世界の健康志向がブームを支えているが、茶を養生の一杯としてとらえる視点は、実は八百年以上も前から日本に根づいていたことになる。

千利休と茶の湯の完成

抹茶の文化を芸術の域にまで高めたのが、室町から安土桃山にかけて発展した茶の湯である。簡素なものに美を見いだすわび茶の精神は、やがて千利休によって大成されたとされる。一碗の抹茶を点て、客をもてなす。その所作の一つ一つに、季節や心づかいが込められた。単なる飲み物を超え、精神の修養や人との交わりの場となった茶の湯は、日本の美意識そのものを映す鏡として、後世に大きな影響を残した。

煎茶という、もう一つの緑茶

急須から注がれる一杯の緑茶。淹れて味わう煎茶は、点てて飲む抹茶と並ぶ日本茶のもう一つの主役であり、いままさに時代の波に揺れている。
急須から注がれる一杯の緑茶。淹れて味わう煎茶は、点てて飲む抹茶と並ぶ日本茶のもう一つの主役であり、いままさに時代の波に揺れている。

一方で、私たちが日常でよく口にする淹れる緑茶、すなわち煎茶が広く普及したのは江戸時代のことだとされる。茶葉に湯を注ぎ、立ちのぼる香りとともに上澄みを味わう。宇治をはじめとする産地が名を高め、庶民の暮らしにも茶が深く溶け込んでいった。点てて飲む抹茶と、淹れて飲む煎茶。この二つが両輪となって、日本茶の豊かな文化はかたちづくられてきたのである。

ブームがもたらした転換

さて、話を現代に戻そう。世界的な抹茶人気は、産地の風景そのものを変えつつある。報道によると、抹茶の原料である碾茶の生産は2024年まで四年連続で増え、取引の単価も上昇傾向にあるという。そのため、これまで煎茶を作ってきた多くの農家が、より高く売れる碾茶づくりへと軸足を移し始めている。需要のあるものを作るのは自然な流れだが、この転換が思わぬひずみも生んでいる。

沸くブームの裏で

皮肉なことに、抹茶がもてはやされる裏側で、日常の煎茶が影響を受けている。農家が碾茶へ移ることで煎茶の供給が細り、値上がりも起きていると報じられている。さらに驚くのは、需要が沸いているはずの茶業界で、製茶業者の休廃業や解散が過去最多の13件に達したという事実だ。ブームは追い風であると同時に、体力の弱い担い手をふるいにかける厳しい風でもある。光の裏には、確かな影がある。

押し寄せる海外産

国内の供給が追いつかないなか、別の動きも起きている。報道によれば、2025年度の安価な海外産緑茶の輸入量は5,801トンと、前年度から82パーセントも増えたという。加えて、本来の碾茶ではない粉末茶までもが「抹茶」として出回ることへの懸念も指摘されている。世界が求める「マッチャ」と、日本が守ってきた本物の抹茶。その言葉の中身が揺らぎ始めていることに、産地は危機感を抱いている。

わずか0.04パーセントという現実

ブランドとして名高い宇治抹茶にしても、その足元は決して盤石ではない。ある指摘によれば、宇治市内で実際に収穫される茶は、全国の茶の収穫量のわずか0.04パーセントほどにすぎないという。しかも日本の茶園のおよそ四割は山あいの中山間地にあり、高齢化が進むなかで碾茶への転換は容易ではない。世界的な名声と、それを支える現場の細さ。その落差の大きさに、あらためて考えさせられる。

伝統をどう次代へ

こうして見てくると、抹茶ブームは単なる明るい話題ではないことが分かる。需要をどう安定した産地の力に変えるか、本物の品質と担い手をどう守るか。問われている課題は重い。栄西が一杯の茶に養生を見いだし、利休が一碗にもてなしの心を託したように、日本茶にはただの流行では終わらない深い価値が宿っている。その価値を、目先のブームで消費し尽くさない知恵が、いま求められている。

一碗の重み

世界の人々が抹茶に魅せられるのは、その色や味だけではないはずだ。八百年をかけて磨かれてきた文化の厚みが、一碗の向こうに静かに息づいているからだろう。過去最高という輝かしい数字の裏で、産地は懸命にその重みを支えている。ブームの波が引いたあとに何を残せるか。私たちがどんな一杯を選び、どう味わうか。その一つ一つが、日本茶のこれからを静かに形づくっていくのだと思う。

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渡辺 美咲 2026-09-15 · 1 min read · 6 reads
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