奄美大島古仁屋で初開催の野生イルカ観察。バリアフリー対応で実現した体験と、クレヨン画に残る子どもたちの素朴な気づき。自然をコントロールできない事実への直面。
「イルカはうんちするんだなぁ。あんなに長くてお水みたいで白だった」。10月4日、瀬戸内町古仁屋周辺海域で行われた自然体験プログラムに、この素直な驚きが記録されている。大人たちが「自然尊重」といった抽象的な概念を語りがちな場面で、6人の子どもが最初に言葉にしたのは、野生生物の生理的な側面そのものだった。
金子理恵代表が手掛けるこの事業は、奄美群島広域事務組合の助成を受けて初めて実施されたものだ。古仁屋と嘉鉄に住む親子10人が参加したが、泳ぎに不安を持つ参加者もいた。そこでバリアフリー施設を運営するゼログラヴィティが協力し、サポートスタッフ2人を配置して、安全に海へ入る体制を整えた。
5フィートのジンベイザメが教えてくれること
実はこの時期、世界では別の「赤ちゃん」の発見が話題になっている。2024年9月6日にインドネシア・スンバワ島のサーレ湾で、体長約1.5メートルの幼いジンベイザメが漁網にかかった。成長すると12メートルを超えるこの魚にとって、これは生まれたばかりの個体だ。
サーレ湾はマングローブに囲まれた半閉鎖的な海域で、プランクトンが豊富だ。成体には脅威にならない捕食者が、幼体にとっては危険な存在になり得る。つまり、この湾は赤ちゃんジンベイザメにとっての「隠れ家」なのである。

「2頭だったのが5〜6頭に」
古仁屋の海では、最初2頭だったイルカが次第に増え、最終的には5〜6頭が悠々と泳ぐ姿が見られた。保護者のアンケートには「野生のイルカとの出会いは本当に一瞬で、私たちの都合ではなく、自然の中で生きるイルカたちの動きに合わせて出会わせてもらうものなのだと実感した」という言葉が残っている。
この「一瞬」という感覚は、人間が自然をコントロールできないという事実を突きつける。成体のジンベイザメが約7000キロも移動するのに対し、野生のイルカとの出会いは、まさにその瞬間にのみ存在する。

クレヨン画が記録する「心の動き」
プログラムでは、観察の前と後に子どもたちがクレヨン画を描くという独特な工夫があった。これは単なる記録ではなく、体験を通して感じたことや心の動きを振り返る機会だった。「イルカが間近に見れてよかった。うれしかった」という喜びと、「うんち」の発見が並ぶ。この対比こそが、自然体験の本質を捉えている。
金子代表は「イルカを見つけた瞬間の笑顔や、イルカを心配する子どもたちの姿、他の参加者を思いやる様子も見られた」と振り返る。観察するだけでなく、他者への共感や命を大切にする心が育つ場だったのだ。

「同じ自然の中で暮らしている」
アンケートには「人間も野生の生き物も、同じ自然の中で暮らしているのだと改めて感じ、私たちの都合で自然をコントロールするのではなく、お互いの暮らしを脅かさず、尊重しながら共存していくことが大切なのだと思った」という回答もあった。これは、現代の環境教育が求めている核心部分である。
北太平洋では2026年、海面水温の異常上昇が記録され、アジやイワシが沿岸に接近、捕食中のクジラが漁具に絡まる事故も起きている。自然は人間の見えぬところで、すでに激しく動いている。
次世代につなぐ、奄美の海
今回のプログラムは、奄美の海と野生イルカを「次世代につなぐ」ことを目的としている。子どもたちがクレヨンで描いた「白い、長い、水みたいな」イルカの排泄物という、一見するとふざけた表現の中にこそ、野生の生き物に対する真の理解が詰まっている。
自然を「大切にする心」は、説教ではなく、海に入り、イルカを間近に見て、その「一瞬」を体験した後に初めて育つものなのだろう。古仁屋の海が、その最初の教室となったのだ。
よくある質問

Keep subscribing to 小林 七海Her next filing reaches you the moment it publishes, on her own subdomain.
Subscribe
