気候変動対策は世界観の違いで支持が割れやすい一方、生物多様性の保全はより幅広い層の賛同を得やすい。横浜国立大学の研究チームが約1100人への調査からそうした傾向を明らかにした。
気候変動への対策をめぐる議論は、しばしば人々の価値観や世界観の違いによって鋭く割れてしまう。ところが、生物多様性の保全という切り口であれば、より幅広い層の賛同を得られる可能性がある。横浜国立大学の研究チームが2026年9月に発表した研究は、日本の人々を対象とした大規模な調査をもとに、そうした傾向をはっきりと示した。
約1100人を対象にした調査
この研究をまとめたのは、横浜国立大学環境情報研究院の高木彩氏と中臺亮介氏である。研究チームは2025年6月、日本各地の1133人を対象に調査を実施し、人々が抱く文化的な世界観や、自然に対して見いだす価値、環境リスクの受け止め方、そしてさまざまな環境政策への支持の度合いを、ひとつずつ丁寧に尋ねていった。
調査の成果は、2026年9月10日付で学術誌コミュニケーションズ・サステナビリティに掲載された。研究では回答者の世界観を大きく二つに分け、序列を重んじる「階層的」な世界観と、平等を重んじる「平等主義的」な世界観という枠組みから、環境政策への態度がどのように変わっていくのかを分析している。
世界観によって割れる気候政策
分析の結果、階層的な世界観を強く持つ人ほど、気候変動対策の政策に対する支持が低くなるという、明確な負の相関が浮かび上がった。社会の秩序や既存の仕組みを重んじる姿勢が、気候政策への慎重さや反発と結びつきやすいことを、今回の調査は数字の上でもはっきりと裏づけた形である。これまで感覚的に語られることの多かった傾向を、実際のデータをもとに確かめた点でも、大きな意義があるといえる。
ところが、同じ人々であっても、生物多様性の保全に関わる施策に対しては、そうした負の関係がずっと弱いか、あるいはほとんど見られなかった。つまり、気候変動という言葉には身構えてしまう人でも、身近な自然や生きものを守るという話には、比較的すなおに賛同しやすいという傾向が、今回の分析からは見えてきたのである。
自然とのつながりが鍵に

さらに注目されるのは、自然との個人的な、あるいは文化的なつながりを大切にしている人々の姿勢である。こうした人たちは、気候政策であれ、生物多様性の保全であれ、調査で扱われた三つの政策のすべてに対して、一貫して安定した支持を示していた。自然を身近に感じる感覚が、立場の違いを越えて環境への行動を後押ししている可能性がある。
研究をまとめた高木氏は、「環境政策への支持は、人々が何を知っているかだけでなく、その人が抱く文化的な世界観にも左右されうる」と述べている。単に科学的な事実を正確に伝えるだけでは、必ずしも幅広い支持にはつながらないという、これからの政策づくりにとって見過ごせない示唆が、この言葉には込められている。
政策の伝え方への示唆
この知見は、環境政策をどう組み立て、どのような言葉にして人々へ届けるのかという、実務的な問いにも深く関わってくる。気候変動という枠組みでは対立を招きやすい施策であっても、生物多様性や身近な自然の保全という切り口で語り直すことによって、より多くの人の理解と協力を得られるようになるかもしれない。
研究チームは今後、政策の見せ方や言い回しが、世界観の影響をどのように変えるのかを、実験的に確かめていく計画だという。加えて、より政治的な対立が激しい国々でも同じ傾向が見られるのかを検証し、さらに健康や食料安全保障といった別の分野の政策にも、この手法を応用していきたいとしている。
「30 by 30」と日本の取り組み
こうした研究は、日本がいま進めている自然保護の政策とも深く響き合う。日本は、2030年までに陸と海のそれぞれ30%以上を保全するという「30 by 30」と呼ばれる国際的な目標の達成を目指しており、その実現に向けた歩みを、官と民の双方で着実に進めているところである。この目標は、生物多様性の損失に歯止めをかけるために各国が交わした、世界共通の約束でもある。
その柱の一つが、地域の生物多様性を高める活動を後押しする法律に基づく、自然共生サイトの認定制度である。この制度は2025年4月に本格的に動き出し、国立公園をはじめとする自然の魅力を高めながら、過度な観光の集中という課題にも向き合い、保全と持続的な利用の好循環を生み出そうとしている。
日本はこれまでに、34の国立公園と、湿地を守るラムサール条約に登録された56の湿地を抱え、独自の生態系を守ってきた。海の生物多様性やサンゴ礁の保護においても、世界の中で重要な役割を担っている。今回の研究は、こうした地道な取り組みを社会全体で支えていくうえでの、貴重なヒントになりうるものだ。
気候変動と生物多様性の喪失は、本来は切り離すことのできない、ひとつながりの危機である。だからこそ、人々の世界観の違いを踏まえたうえで、対立ではなく共感を生む語り方を見つけることには、大きな意味がある。身近な自然を守りたいという素朴な気持ちを入り口として、より広い環境行動へとつなげていく。そんな道筋の可能性を、今回の研究は静かに指し示している。

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