小惑星イトカワ、リュウグウ、そして火星の衛星フォボスへ。試料回収で世界をリードしてきた日本が、次に狙うのは彗星だ。彗星「289P/ブランペイン」から太陽系誕生の記憶を持ち帰る計画「NGSR」の狙いと挑戦を追う。
火星の衛星フォボスを目指す探査機MMXに続いて、日本の科学者たちが次の視野に入れているのは彗星である。報道や研究発表によれば、彗星から試料を持ち帰る新たな計画「NGSR」が、次世代の大型ミッションの有力な候補として、本格的に検討され始めているという。
次の目標は彗星
この計画の正式な名称は次世代小天体サンプルリターンで、英語の頭文字を取ってNGSRと呼ばれている。狙いを定めているのは、289P/ブランペインと呼ばれる小さな彗星であり、その核の半径はわずか160メートルほどしかないと見積もられている、とても小さな天体である。
この彗星は1819年に発見された後、およそ200年ものあいだ見失われ、2003年から2005年にかけてようやく再発見されたという、変わった経歴を持つ。地球から比較的近づきやすく、太陽系ができたころの物質を残していると考えられる点が、目標に選ばれた大きな理由だとされる。
なぜ彗星なのか

そもそも、なぜわざわざ遠く離れた彗星を目指すのだろうか。彗星は太陽から遠く離れた冷たい場所を回るため、太陽系が誕生したころの氷や物質を、ほとんど変化させないまま内部に閉じ込めていると考えられているからだ。まさに太陽系の化石とも言える、貴重な存在なのである。
計画では、彗星の表面だけでなく核のより深いところ、つまり地下の試料を採取することを目指しているという。長い年月ほとんど手つかずのまま眠ってきた物質を直接調べることで、太陽系の初期の姿や、生命のもとになった有機物の起源にまで迫れると期待されている。
はやぶさから受け継ぐ技術
この壮大な挑戦を支えるのは、日本がこれまで地道に積み重ねてきた深宇宙探査の実績である。報道によれば、NGSRの探査機の設計は、二機のはやぶさで培われた数々の技術を色濃く受け継いだものになるとされ、いわばこれまでの探査の集大成としての位置づけになる。
試料の採取には、高速で彗星の核に衝突させる装置、いわゆるインパクターを使う計画だという。これは「はやぶさ2」が小惑星リュウグウで人工クレーターを作り出した手法をさらに発展させたもので、表面の下に眠る物質を宇宙空間に露出させる狙いがあるとされている。
14年におよぶ長い旅
ただし、その道のりは気が遠くなるほど長い。計画によれば、打ち上げは2030年代を予定しており、探査機が実際に彗星へ到着するのは2041年ごろ、往復の航行を含めた全体の期間はおよそ14年に及ぶ、極めて大掛かりで息の長いミッションになるとされている。
彗星に含まれる揮発性の物質は非常に繊細で、時間とともに失われやすいという難しさがある。そのため、採取した直後に探査機へ積んだ装置でその場で分析し、地球へ持ち帰るまでの長い期間、できるだけ試料の状態を保つための工夫も併せて検討されているという。
日本の強みと課題
こうした計画は、日本がサンプルリターンという分野で長年かけて築いてきた独自の強みを、あらためて象徴するものだといえる。小惑星から火星の衛星、そして彗星へと、対象を少しずつ広げながら技術を積み上げてきた国は、世界を広く見渡してもきわめて珍しい存在である。
一方で、乗り越えるべき課題も決して小さくはない。10年を優に超える長期の運用や、動く彗星への衝突と試料採取という技術的な難しさに加え、この計画自体もまだ検討の段階にあり、正式な実現までには、まだ数多くの技術的な関門が待ち受けているのが現実である。
何がわかるのか
それでも、もし成功すれば、ほとんど汚染されていない彗星本来の物質を、人類は歴史上初めて手にすることになる。そこには、太陽系がどのように生まれ、そして地球にどのようにして生命の材料がもたらされたのかを解き明かす、重要な手がかりが眠っているかもしれない。
小惑星から火星の衛星、そして彗星へ。日本は試料回収という得意分野で、宇宙探査のフロンティアを一歩ずつ着実に押し広げようとしている。NGSRは、その長い歩みにおける次の大きな一歩になり得る、宇宙探査の未来を占う非常に野心的な挑戦だといえるだろう。

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