年を重ねて心身が弱る中間の段階、フレイル。日本老年医学会が2014年に提唱したこの状態は、早めに気づけば再び健やかさを取り戻せる可逆性が特徴です。身体・精神・社会という三つの側面と、運動・栄養・人とのつながりという予防の柱を、介護の現場を見つめてきた記者が静かにたどります。
介護の現場で働く人々の一日を、そばで静かに追いかけていると、あることにあらためて気づかされます。いま誰かの手助けを必要としている高齢者の多くが、その前に、健康な状態と要介護の状態とのちょうどあいだにある、ある中間の段階を静かに通り過ぎてきた、という確かな事実です。
その段階には、フレイルという名前がつけられています。年を重ねて心身が少しずつ弱っていく途中の状態を指す言葉で、決して他人事ではありません。しかし正しく知り、早めに手を打てば、そこから再び健やかさを取り戻すこともできる、希望のある概念でもあるのです。
フレイルとは何か
フレイルとは、英語のフレイルティを日本語に訳した言葉で、日本老年医学会が2014年に提唱しました。加齢によって体に備わった予備の力が少しずつ低下し、ちょっとしたストレスや病気に対して、心も体ももろく弱くなってしまった状態のことを指しています。
いわば、まだ十分に元気な状態と、日々の介護が必要な状態との、ちょうど中間にあたる段階だといえます。とりわけ七十五歳を過ぎた後期高齢者の多くは、このフレイルという段階をいったん経てから、だんだんと要介護の状態へと移っていくと、専門家のあいだで考えられているのです。
三つの側面から成る
フレイルは、単に体が弱っていくだけの問題ではありません。専門家は大きく三つの側面から捉えています。一つ目は、筋力の低下や歩く力の衰えといった身体的な側面で、これは最も分かりやすく、多くの人が真っ先に思い浮かべる、いわば代表的なものだといえるでしょう。
二つ目は、もの忘れや気分の落ち込みといった、精神的そして心理的な側面です。そして三つ目にあたるのが、一人暮らしや人づき合いの減少といった社会的な側面です。この三つの側面は互いに深く絡み合いながら、本人も気づかぬうちに、静かに少しずつ進行していくと言われています。
まず歩くことから
では、どうすれば防ぐことができるのでしょうか。最も大切な柱の一つが、日々きちんと体を動かすことです。息が少し弾む程度の有酸素運動に加えて、筋肉に軽く負荷をかけるレジスタンス運動を、週に二回から三回ほどうまく組み合わせるのが効果的だとされています。
難しく考える必要はまったくありません。まずは背筋をすっと伸ばして、いつもより少し速めに歩く。ただそれだけでも、じゅうぶんに立派な運動になります。適切な運動と栄養をていねいに組み合わせれば、およそ三か月ほどで筋肉量の増加が期待できるという報告もあるのです。
たんぱく質をしっかりと

運動と並んで欠かせないのが、毎日の栄養です。とりわけ大切なのが、筋肉のもとになるたんぱく質を、毎食できるだけしっかりと摂ることです。年をとると食が細くなりがちですが、肉や魚、卵、そして豆類などを意識して、日々の食卓にのせていくことが強く勧められています。
あっさりとしたものばかりに偏ってしまうと、気づかぬうちに栄養が不足し、かえってフレイルを早めてしまうこともあります。彩り豊かな食卓を心がけ、いろいろな食品をまんべんなく口にしていくことが、丈夫でしなやかな体を保つうえでの、何よりも確かな土台になっていくのです。
人とのつながりも力に
そして意外なほど見落とされがちなのが、人とのつながりです。誰かと会って言葉を交わし、地域の活動に気軽に顔を出してみる。そうした何気ない社会参加が、心を明るく元気に保ち、外へ出て体を動かすきっかけにもなって、フレイルを遠ざける大きな力になってくれます。
逆に、人づき合いがめっきり減って、家に閉じこもりがちになってしまうと、体も心も一気に弱りやすくなってしまいます。運動、栄養、そして人とのつながり。この三つを、日々の暮らしの中でバランスよく保ち続けていくことが、フレイル予防の何よりの近道だといえるでしょう。
気づけば戻れる
フレイルの最も大切な点は、それが可逆的であるということです。つまり、早めに気づいて適切に手を打てば、そこから再び健やかな状態へと戻っていくことができます。ここが、いったんなってしまうとなかなか戻りにくい要介護の状態とは、決定的に大きく異なっているところなのです。
介護の現場で懸命に働く人々を、そばで静かに見つめ続けてきた私は、その一歩手前で踏みとどまることの大切さを、日々痛いほど感じています。今日、少しだけ多めに歩き、しっかりと食べ、そして誰かと笑い合う。その小さな積み重ねこそが、未来の自分を静かに支えてくれるはずです。
高齢者についての良い記事です.

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